リオ五輪 体操競技男子日本代表チームにおけるトレーナー活動報告

リオ五輪代表中島 啓トレーナー

2016 年10 月29 日(土)に東京有明医療大学にて、公開講座「トレーナーから見たリオ・オリンピック・パラリンピック ~2020 年に向けて~」が開催されました。

本記事では体操競技男子日本代表トレーナーの中島 啓 先生 による活動報告をお伝えします。

中島 啓 先生 プロフィール

  • はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師
  • けい治療院 院長
  • 日本体育大学卒業
  • 花田学園 日本鍼灸理療専門学校 本科 2002 年度卒業

トレーナーとして大切なことは「信頼関係」

体操選手は痛みや感覚について非常に繊細です。治療やトリートメント後に身体の状態が中途半端な仕上がりだと、私たちの仕事を許してくれません。トレーナーは選手のケガに対して、監督、コーチ、ドクターをはじめとするチームスタッフと連携して、選手が翌日に練習できる身体を作ることが大きな役割だと思います。ケガをした選手から「大丈夫でしょ?」と言われて、「大丈夫だよ」と言ってあげられないといけません。

不安を抱えている状態でも、しっかり動ける身体に仕上げることがトレーナーとして難しいところです。現在かかえているケガや痛みといった不安に対して、明日の状況をいかに改善するかを考えながら常に活動しています。

体操選手の多くは、慢性的な痛みを抱えながら競技生活を送っている選手がみうけられます(多くいます)。トレーナーは選手がどこまで練習をしていいのかを、大会のスケジュールから逆算して治療やコンディショニングの計画を立てます。選手、ドクターとの緊密な連携のもとに、「この種目のこの動きを練習する、しない」を決めていきます。トレーナーは選手とドクター、選手とコーチの仲介役だと思っています。大切なのは信頼関係です。選手達はいつも「明日の練習はきちんとできるか」ということを常に思っています。それができるような状況をどうやって作るかを考えて行動するのがトレーナーの仕事です。

選手の身体を触って選手に落とし込んでいく

我々トレーナーは個々の選手の状況に応じたアドバイスをしなければいけません。

トレーナーは選手の身体を触って、「ここが反応していない」、「蹴り負けている」、「鉄棒のしなりが使えていない」など、競技経験者ならではの、その時に感じたものを伝えます。それに対して選手は「昨日こういう状態だったから、ここを意識してトレーニングをしてから練習をやろう」といった判断をしています。

強い絆を持ったチーム

今回の代表チームとして一番強く掲げていたのは、「それぞれの役割をしっかり果たす」ということでした。選手にとっては「自分たちの練習」、「試合でどういう結果を出すのか」であり、私たちトレーナーにとっては「選手の状態を大会までにどういうふうに持っていくのか」というコンディショニングやケアの部分になります。コーチもスタッフも皆が同じ方向を向いて、「自分たちは自分たちの仕事をやるから、あなた達も頼むよ」という、それだけ絆が深かったから今回の結果があったのだと思います。

終わりに

私は今大会に、トレーナーとしてというよりはチームの一員として、選手とトレーナーというよりは、その関係を超えた信頼関係で選手、コーチと関われました。競技現場にいる一人の人間としてあるべき姿は競技を愛することや、選手たちとどうやって関わっていけるのかを考えて行動することだと思います。

今は勉強がたとえ不得意であっても、トレーナーを目指す熱い気持ちでやればトップレベルまで上がれると思います。日本代表選手のトレーナーになれずに、ジュニア選手を担当する際も、そのジュニア選手が将来オリンピックメダリストになるという夢を持たせる良いきっかけになると思います。そういった活動ができるトレーナーが「東京2020」に向けて増えていくことが、日本のスポーツ界にとって大事なことだと思います。